あるところに三十歳そこそこの青年が居ました◎
若いその青年は大都会東京で仕事と渋滞と人ごみの日々
ある日、日々の仕事からのストレスで
何もかもが嫌になり
この東京から逃げたくなりました◎
見たこともないような土地へ行って
誰も知らないどこか遠い場所へ行って
とにかく一人きりになる時間が欲しい、と
青年は東京から新幹線に乗り
ある駅で在来線に乗り換え
再びある駅で一両編成のローカル線に乗り換えました
東京を出たのは午前中だったものの
ローカル線に乗り換えたころには夕暮れ近くになっていました◎
ごとんごとん、と
バスのような速さでしかすすまない電車に乗りながらも
どこか遠くに来ている感じが自然と青年の心を静かにしていきました◎
数十分乗った頃、車窓を眺めると
ふと、ある看板が目に入ってきたのです◎
農村景観日本一
と◎
青年の心は高ぶりました
都会で疲れた心身を芯から癒してくれるのは
こういう場所に違いない、と
何も調べず
何も使わず
ただただ
自分の思い向くままに電車を乗り継いで眺めていた車窓から見えた
その看板は青年に運命を感じさせるには十分でした◎
すぐさま青年はその駅で降りたのです◎
思いの向くままに◎
仄かに沸いた
青年の胸の高鳴りは、その後すぐに
かき消されてしまいます
田舎のローカル線の駅、駅前に誰かが居るようなものでもなく
庭にある小屋のような小さな箱状の物を駅と言っているようなそんな駅です
農村景観を見ようと降りたものの
日は沈みゆく一方、行ってしまった電車の気配は次発を期待させるものでなく
人も車も居ない、ただただこれから広がる夕暮れ、夜の時間に
電車はぽつんと青年を置き去りにした
一瞬にして青年は圧倒的な孤独を感じたのです
誰もいない
それでも青年は、歩いて探せば何かあるだろうと
ひたすら歩いたのでした
辺りはすべて山に囲まれ
雪が積もって融けてもいない畦道を
ただただ目的もなく歩くことしかできない青年は
必死で孤独に負けないように歩いたのです
非情なる田舎
青年の孤独を覆い尽くすかのように
都会ではまだ夜にも入っていないような時間
辺りに深々と夜がやってきました
まわりに明かりも何も見えない
青年はあの駅で降りたことを後悔しました
なぜ、何に向かって歩いているのかも分からない
泣きたくもなりました
孤独で孤独で不安で不安で叫びたくもなりました
でも誰もいないのです
そんな中でも
青年は負けずに、自分にだけは負けてはいけない、と
ただひたすら、歩を進めました
どれぐらい歩いたのだろう
かれこれ二時間ぐらい、か
遠くの方に光の存在を見つけました
真っ暗な山の夜の中
一軒だけ明かりが灯っている家を見つけたのです
青年は藁にもすがる思いで
その家を目指したのです
一瞬頭を不安が過りました
先に見えているのはただの家だ
これがもし東京ならどうだ
いきなり知らない男が夜に尋ねて来て
ここはどこですか、どうやったら帰ることができますか
などと言われたらすぐに警察を呼ばれるんじゃないか
と
考えました
でも背に腹は変えられません
安心と不安が交錯する中で青年はその家の扉を開けました
すると中から青年の父親よりも少し上に見える
その家の主人と思しき人が出て来て
いらっしゃい
と
そこから先はどうなったのか覚えていません
気が付くと
まったく知らない赤の他人であるはずの青年は
炬燵に通され
やれ『温かいお茶だ』と
やれ『甘いお茶菓子だ』と
主人と温かい炬燵に入り
奥さんは青年に色々なおもてなしを準備し
『ほーう、どこから来たよー?』
『東京かー、うちの息子も東京でねー
二人いたんだけど二人ともとっくにもうこっちにはおらんのよー』
どれぐらいの時間その家にいたのかは分からないが
少なくとも雪で芯から冷えたはずの体は
もう温かさで満たされていた◎
主人は青年が温まったのを確認し
ここから一番近い人のいる駅へと車で送った◎
駅には田舎の奥様方がみんなでやっている喫茶店のようなものがあり
あの家の主人の連れてきた青年を温かく迎えた◎
『これがこの土地のお菓子やで食べりー』
『まだ電車まで時間あるでいっぱい飲んでいき』
誰も名前も知らない青年はここでも散々におもてなしを受けた◎
人と出会ったり、話をしたりすることが多すぎて
一つ一つがおろそかになってしまいがちな東京とは違い
青年はもともと何かをしてもらおうなどとは思っていなかったものの
田舎の人の見返りを求めず
(せっかく来てくれたんだから何かしてやりたい)
という気持ちに触れたのでした◎
あまりに人に優しくされたので東京に帰る前に
その話を青年はその町で色々な人に話しました◎
それが回りまわって
うちの母親の耳に入ったのです◎
そうです、舞台は岐阜県恵那市
登場人物【いまだに名前も知らない東京で働く青年】
そして青年がたどりついた家
まさかの、、、
こちら
http://www.kamiya-ke.jp/
神谷家(神谷の実家)
そう
主人とは
神谷の父であり
奥さんとは
神谷のお母さんです◎
この話を聞いたとき
あぁ、神谷のお父さんお母さんなら、これ普通にやる話だわ◎
と感じたのと
会いたいなぁ、なんて思っちゃいました◎
こんな現代に
まんが日本昔話のような
真実の、はなし◎