• 2011年11月9日
  • BY 道太

とんかつ定食

男と妄想は切っても切れない間柄

東京に住みだして13年

その中でも高円寺にはかれこれ8年ぐらい住んでいる

昨日、家の近所の行きつけの定食屋二軒ともがお休みだったので

普段とは違う初めて入るお店に入ってみた

そのお店は、いかにも高円寺と言わんばかりの価格設定で

店頭のガラスには、どう考えても安すぎるようなメニューが一面に書かれている

安かろう悪かろう

では無いけれど、なんとなくずっと敬遠してきたそのお店

いつもの定食屋が同時にどっちもやってないんだからしょうがない

と、自分に言い聞かせ入ったそのお店

まさか、とんかつ定食食べながら泣きそうになるなんて思ってなかった

ランチタイムもとうに終わった三時ごろ、お店に入ると

僕以外にカウンターに二人お客さんが居るだけで

それぞれの人がゆっくりご飯を食べていた

カウンターの向こうには

カウンター越しにでも背が低いのが分かる女将さんが一人で

お米を研いでいた

僕は壁に書かれているメニューから

その日、何を食べようか少しの間考えていた

その間に女将さんは手際良くお米を研ぎ終わると

僕の座った席の目の前にあるガス釜にお米を入れて

水を計り入れていた

あ、うちの実家の店で使ってるのと同じ釜だ

僕はとんかつ定食を頼んだ

東京に来てから、とんかつを塩で食べる事を知り

ここ最近はたまに無性に塩とんかつが食べたくなるのだ

僕の注文を受けると女将さんは

また手際良く、卵を溶いて衣をつけて

油の中にそっと放り込んだ

豚肉が油の中で泳いでるころ

左となりの女性客の方が『ごちそうさまでした』

と席を立ち

女将さんは洗い物をやめて

お会計をした

『ありがとうございました』

お店を出て行くお客さんを見送り

再び、洗い物を始める

豚肉が油の表面に浮いてきたのを確認して

お皿にキャベツを盛り

マカロニサラダを盛り

ご飯をよそって

油から豚肉をすくい上げ

その後、豚肉はとんかつとしてまな板で6等分ぐらいになった

僕にとんかつとキャベツなどの乗ったお皿を出し

ごはんとお味噌汁を出したころ

もう一人居たお客さんも

『ごちそうさまです』と、お会計をした

再び

『ありがとうございました』

と見送り、そのお客さんのお皿を女将さんは洗いだした

僕と言えば

念願の昼ごはんが目の前に来たのだ

久しぶりのとんかつに胸を膨らませ

置いてあった塩をかけ

箸でとんかつを持ち上げた

すると、とんかつの衣が肉から剥げた

実家で食べたような、とんかつだな

なんて、ふと思った

実家にいるころ、めったに、とんかつなんて食べた思い出は無かったけど

この衣の剥げ具合にどこか見覚えがあったのは

きっと、そういうことなんだと思う

東京に来て行った、とんかつ屋さんの完成されたとんかつとは違う

なにか、懐かしいとんかつだった

洗い物をしていた女将さんの洗い物が終わった

僕は豚肉と衣をご飯の上に乗せ

お米と一緒に全部を一気に口に運ぶ

という作業を繰り返していた

洗い物が終わった女将さんは

どこからか小さな台を持ってきて

棚の前に置き、その台の上に乗って背伸びして

棚の上から、調味料を出した

僕ならきっと簡単に届くであろうその棚

その、調味料を取る、ただそれだけの危なっかしい作業もなんとか終わり
台から降りて片手に持った調味料を、まな板の上に置いた

ふぅ、

肩をすくめ、小さなため息のようなものをついた

ら、その直後にはもう、自分の乗っていた台を片付け

吐いた二倍ぐらいの空気を吸い込み

再び背筋を少し伸ばして

なにやら、調味料の補充などをしていた

高校生のころ

実家のお店、全部お客さんが帰ると

見送った後で、お母さんは

ふぅ、

と一息つくのを何度も見た

見てない時もあった

きっと毎日、ついていた

本当に呼吸一回の一息をついた後

お客さんの居た席に残っているお皿を片付け洗っていた

もうちょっと休めばイイのに

とか

何でこんなに頑張るの

とか

勝手な事をよく思っていた

大人になって色んな話を聞いて

親が子供のために頑張れる

その、ことも知った

たまたま入った定食屋さんで

ぜんぜん違うのに

本当にぜんぜん違う人なのに

どこか母の面影を見た

油断したら涙が出てきそうだった

岐阜にちょっと帰りたくなった

僕は塩をやめて

豚肉と衣にソースをたっぷりかけて

白いご飯の上に乗っけてがつがつ食べた

やっぱり懐かしい味がした◎

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