盛岡
本当は各駅停車でゆっくり行くはずだった
だが、北海道の滞在を半日延ばしたことで
時間がそこまでなくなり午前中、陸奥八仙
午後、盛岡の赤武酒造という強行スケジュールになったため
贅沢新幹線だ◎
ゆっくりゆっくり二時間以上かけて到着するはずが
あっという間の30分での移動となった◎
新幹線ってやっぱり早いのね◎
盛岡駅の近くの東横イン前までわざわざ車で迎えに来てくれる、とのことだったので
新幹線を降りると一目散に合流場所に向かった◎
23歳
若さは罪か武器か
僕や神谷にもきっとあったはずなのに
どこへいったんだろう、どこに置いてきたんだろう◎
日本酒のお店をやっていく上でずっと忘れられない言葉がある
青二才で日本酒の会をやろうということになり
こちらの不備や遅れもたくさんあってご迷惑をおかけしたのだが
僕にはどうせ青二才で日本酒の会をやろうということであれば
せっかくだから青二才らしい会をしたくて、杜氏の方にこんなお願いをした
「その日は一スタッフとして青二才に入っていただいて
もちろん酒の会ではあるんですが、来てくださるお客様を共に同じ目線で迎え入れてもらって
例えば、生ビールを注いでもらったり、乾杯の音頭を取ってもらったりしてほしいんですが」
と言うのに対し
「道太くん、僕クラスの杜氏にそれを頼むのは失礼だよ」
と◎
決して批判的な文として書いているわけではないのでそこは理解していただきたいのですが
その言葉を言われた時にあまりにショックだったのは
杜氏のプライドが人それぞれだと知ったことと
基本的に、お客様の願いを全力で叶えるチームを目指している僕らからして
あぁして欲しい、と誰かからお願いされた際にお断りするということがあった場合
物理的にできないとか、ギリギリ頑張るけどコスト的にできないとか
は、あるとして
うちクラスの店にそれは無理でしょ
とお断りする選択肢がないから、驚いたのだ◎
1000円でお釣りがくるような飲み屋さんのことを見ても
「あぁ、あんなに効率的にすごいな」と思うし
一人30000円のレストランにも負けたくないとも思うし
自分たちは望む人がいれば何にだって成れると思っていたのに
そうじゃない人もいるんだ、と知った瞬間だった◎
さて、その方のおっしゃったクラスという言葉が
どのように人に当てはまるかは未だに分からないが
赤武の杜氏、古館龍之介(以下龍ちゃん)君は23歳
どのクラスかは分からないけれど
蔵に行き、ここまでの経緯を聞き、仕込みを見て、話をさらにして
造りを始めてまだ二年目、当然勉強の身であるのだけど
彼のプライドは
自分の、蔵のためにならいくらでも無くせることができるというのがきっとプライドなんだと思う◎
先述の杜氏さんは
きっともう、ある程度自分の道を極めつつあって
一つ一つの意見に同調するよりも、我が道をさらに洗練させるのが良い方法なんだと思う◎
龍ちゃんの場合はまだカラカラのスポンジのように
とにかく色んなものを早く吸収して、自分の道を極めたい、というタイプなんだと思う◎
どちらも素敵だと思う◎
ただまだ、青二才は龍ちゃんのようにスポンジで居たいという面の方が強いけれど◎
彼の蔵は本当は盛岡では無く岩手県の沿岸部、大館市にあった
3.11
多くの犠牲者を出したその日、彼の生まれ育った家である
大館の蔵は津波と火災で全壊した
彼はまだ東京農大の大学生でお酒造りの勉強中であったのだが
さすがにこれはまずいかな、と
蔵が無くなってしまったから、今ここで勉強しても
自分の育った蔵では日本酒造れないのかもな
と考えたらしい、そりゃそうだ
実家を継ぐための進学、勉強だったのに
その場自体が無くなってしまったんだもんね
だが蔵は復活した
盛岡に場所を変えて
たった二行で書いたけれど
その間には彼の父親である社長の並々ならぬ尽力があった
蔵を移転する
一人暮らしワンルーム少年が引っ越すのとはわけが違う
しかも大館時代の道具、機械などはほとんど残っていないから買い直しだ
新しい場所では今までの常連さんもたくさんいるわけではない
借り入れや、補助金や、ありとあらゆるものを駆使して
彼の父親、社長は盛岡の地で蔵を再建した◎
当然、きっと、全てが順風満帆ではない
たくさんたくさん悩みや、辛いことはあるのだと思うが
僕らが蔵に着いた時からずーっと笑顔だ◎
23歳の龍ちゃんに蔵を案内してもらった◎
その日たまたま全スタッフがいた◎
会う人会う人みんな少年のような笑顔で「こんにちはー」と◎
なんだか友達の家に遊びに来ているような感覚になった◎
23歳の彼はまたどのスタッフよりも若い
だが醸造の責任者として、時に上に立たないといけない時も多々ある
それでも彼は年上の方に敬意を払っていたり
年上ではあるが雇われる側の蔵人さんも彼に敬意を払っている◎
とても良い人間関係が作られているんだな、と感じた◎
大学のサークルのような、温かい人間関係がそこにはあった◎
が
お酒造りに関してはとてもストイックに
また真摯に勉強をしている◎
そのメリハリがうまくついていると感じた◎
きっと社長のせいなんだと思う◎
蔵から送ってもらう車の中で社長がこんなことを言っていた◎
「僕が主人公になん無くても良いんです、みんなそれぞれの事情がありますから
辛いことや不満なんかを、吐き出せるようにしておいてあげるのが僕の仕事です」
と
「社長だって不満や不安や、辛いことあるじゃないですか、知ってますよ僕も少しだけそれなんで◎」
などという前に
「僕の辛い部分は、また別にちょこちょこ聞いてくれる人がいるんです。励ましてくれる人がいるんです
それだけで僕は良いです」
とても強さを感じたのに
実際に話していると本当に優しく穏やかな人◎
最後、写真を撮ろう!
となった時
「せっかくだからみんなで写ろう」と
社員さんを全員集めてくれたにも関わらず
「僕がカメラマンやる」と言って
聞いてくれなかった◎
人のためにここまでサラッと黒子になれる人
そんな人の上で思い思いにお酒を造っている◎
赤武は楽しいお酒◎
そして若さを再び感じたい時、温かさを感じたい時に呑むお酒◎
盛岡の市街地で夜は
龍ちゃん、僕、神谷に加え
もともと阿佐ヶ谷で出会い、結婚した夫婦
川村夫妻と合流◎
3軒もハシゴして
ずっと龍ちゃんはこんなおじさんおばさんに囲まれ付き合ってくれた◎
これからどんどん良くなるし、応援したい蔵、赤武◎