7月の三連休明け
神谷が召喚したマーゴン(台風6号)のおかげで
外は雨が降り続くという
絶対、営業には向かないような日と言うのに
きじやは、超満席だった◎
連日、閉店の噂を聞きつけた町の人たちが
大挙して来てくださっているのだそう◎
中には
閉店と言う噂を確かめに来て
事実と知り、泣いて帰られる方や
そのことで家族会議が行なわれるような方も居たそうで
本当に愛されていたお店なんだと知った◎
いつもは裏口から入るのが通例なのだけど
この日一般営業に
初めて正面の扉から入った◎
忙しい中
アオニポロを着た6人を満面の笑みで
ヒナちゃんも、嘉子も迎え入れてくれた◎
あと、数日で
この営業も終わるのかと思うと
本当に不思議な感じだった◎
この日、さらに
慎矢のお父さんと、お母さんが来て下さった◎
神谷をはじめ、マー君たちには当然初対面なお父さん
開口一番
『好きなものは酒と女です』と◎
さすが、息子さんもその遺伝子ちゃんと引き継いでます◎笑
一気に打ち解け
そして、カウンターが満席で入れなかった
初対面の後藤さん、も僕らの席に入ってくださり
さらにさらに、仕事が終わった
神谷のお父さんとお母さんも、来てくださり
当初6名で座るはずだった席に、11名が座っていた◎
僕の大好きな青二才スタッフ
それに、大好きな家族が加わった飲み会は
本当に楽しすぎた◎
初めてのメンバー構成
でも、この場所はもうじきお店ではなくなる
ハジメテとオワリが混在しながら
どんどんお酒の瓶が空いた◎
神谷のお父さんお母さんとも話した◎
慎矢のお父さんお母さんとも話した◎
我が家だけでなく、やはりどの家の両親も
子供のことが大事で大事で、愛があふれていた◎
慎矢と出会ったときの話や
神谷と一緒に住んでいたころの話
ちっぽけなことだけど
その話の度に
『道太君と一緒におれて、うちの子は幸せやわーありがとう』
って◎
お父さんお母さん
そんな言葉もったいなさ過ぎます◎
僕の方こそ、感謝してもしきれないぐらいに『ありがとう』です◎
このままずっと今日みたいな日が
続けばいいのに、と思ったりもしてしまった
きじやのトイレに行く途中
店内に久しぶりにヒナちゃんの文字を発見した◎
きじやの閉店に際し
ヒナちゃんがお客様に向けて書いた言葉だった◎
僕は
こんなに前向きな閉店の知らせの紙を見たことが無い
こんなに感謝に溢れた閉店の知らせの言葉を見たことが無い
衝撃だった
本来、辛い知らせなのに
なんでだろう、これを読んじゃうと
心が素直に受け入れてしまうじゃないか◎
普通は
『諸般の都合により7月31日に閉店させていただくこととなりました
今までのご愛顧、誠に感謝しております。ありがとうございました。 店主』
ぐらいのものじゃないか◎
ふと、お父さんのお葬式の時のことを思い出した◎
若くして他界した、お祭り好きで人気者だった父の葬式には
1000人もの人が来てくれ、そのほとんどの人が
泣いていると言うものだった
その大勢の人を前に
『ヒトシさんは人が集まる場所が大好きでした
今日はヒトシさんのためにこんなにも集まってくれて
まるでお祭りですね。ぜひ、今日はお祭りにしてあげてください
そして楽しんでいってください』
前向きすぎる
一番辛くて泣きたいはずの
母の、妻の、強い言葉だった◎
大変な時こそ
笑顔
ではなく
大変な時こそ
人に感謝
なのだ◎
感謝するとき
『ありがとう』と言うとき
笑顔になれることを教えてもらった◎
お婆ちゃんが
何かにつけて『ありがとうございます』
と言うのはそういうものだったのか◎
ふと
僕は
大きな『ありがとう』の流れの中で
生かしてもらってるんだ
と◎
このきじやも
おばあちゃんも
ヒナちゃんも
嘉子も
神谷、慎矢のご両親も
青二才のスタッフも
きっと相互に
『ありがとう』で満たされている◎
僕はそれをうまく伝えていくことが出来るのだろうか◎
みんなみんなにありがとう
と言いながらも夜は更けていった◎
ご両親、飛び入りの後藤さんもお帰りになり
その日来て下さった
何十人もの人に
それぞれ、深々と頭を下げて
時おり、ハグをして
ヒナちゃんは見送っていた◎
今まで何万回、何十万回と
この入り口のところで言っていた言葉だね◎
お客さんはその『ありがとうございました』で
安心し、お店を出られるんだと、やっと知ったよ◎
ただ、僕ら子供のために
お店を続ける決心をして
頭を下げ、来てくださるお客さんに
感謝をした日々ももうじき終わる
あんなに悩ませた、経営者の立場ももうじき終わる
でも、それと同時に
きじやという看板も終わる
終わりというのは
どうしても、寂しさがこみ上げてくる
楽しかった今日の宴ももうじき終わっちゃう