前編はこちら。
梨菜の身近な人達は、初めて会う新参者の自分を温かく受け入れてくれた。
法要を終えてみんなで食事の席についた後、
ついつい睡眠が少し足らない身体に鞭を打って、一緒に盃を傾ける。
きっと、逆に気を遣ってお酒をどんどん頼んでくれてたんだろうなぁ。
そんな気遣いが嬉しくなっちゃって、どんどん酔いが進む。
ただ、楽しい時間もそろそろってなって、全員でもう一度故人の家に戻った。
そこで少しだけ休憩をした後、梨菜の実家に向かおうと車に乗り込んだ。
別れ際、みんなが見送ってくれてる。
自分を、ではないけど嬉しくって、また来たいと思ったのを覚えてる。
あぁこういうことなんだって、
何だかウキウキとワクワクが同時に自分の中で暴れまわってた。
「もう一度会いたい」って素直に思える人たちだった。
その温かい気持ちのまま梨菜の実家に着いた後は、
家族が増える、親族が増えるってことはこういうことなんだって、そう感じた2日間だった。
梨菜の姪っ子、甥っ子とも一緒に遊んだ。
でもその日ほとんど寝てなかった三十路の体には、子どもの元気がよく沁みた。
翌日、一緒に遊んであげようと思っても、自分の身体がなかなかいうことを聞いてくれない。
そういえば、この頃から体調がすぐれなかったな・・・
満足に遊んであげることもできず、自宅に帰ることに。
立川に子どもたちを電車で送っていくことになっていたので、
梨菜と一緒に子どもたちを連れて立川に向かった。
帰りの車内。
空いた席に子どもたちを座らせようと、席に子どもたちを誘導した。
が、先に20代の男性と女性が座ってしまった。
子どもたちが戸惑っていると、その二人が子どもたちに席を譲ってくれた。
「ありがとうございます。」
と礼を告げて、またしばらく電車に揺られる。
目的地で降りる頃、子どもたちにも“お礼を言う”ことを教えたかったのか、
「譲ってくれたお兄ちゃんとお姉ちゃんにありがとうございますって言いなさい」
と自分は口走っていた。少しだけ偉そうに。
その瞬間、あぁもしかしたら子どもができたらこんな感じなのかと、
自分にとっては未知の世界の一コマを垣間見た気がした。
何だか幸せな気持ちが沸々と湧いてくる。
子どもたちを母親のところへ連れていき、自分と梨菜は帰宅することにした。
あぁ、見えなくなるまで手を振ってる・・・
さっきからじんわりと感じる幸せな気持ちが一気に大きくなる。
この時、自分の体調の悪さなんてただの二日酔いだと思ってた。
前日から続いてる温かい気持ちが、そんなことも忘れさせてしまう。
疲れていたこともあって、家に到着した僕たちは、少し早かったが、
温かい気持ちのまま床に就いた。
連休明けの出勤。店内には神谷さん、ロミ、マコトがいる。
少し風邪っぽいとは思っていたが、気のせいだと思うことにした。
思い込みに成功したのか、何事もなくその日を終えた。
次の日、熱があるとの連絡をしてきたのは神谷さんだった。
大事を取って休んでもらった、その日の夕方。
店のデスクにあった体温計で熱を計ってみた。
「37.5度あるやん・・・」
よし、見なかったことにしよう。これは何かの間違いだ。
しかし、体は嘘をつけない。営業中、寒気でガタガタ震えていたので、
ついに次の日に病院にいった。
熱は37.3度。
先生に言われた。
「十中八九ただの風邪だと思いますが~、念の為インフルエンザの検査をしときましょうか。」
10分後、神妙な面持ちで控室で待つ自分のところへやってきた先生。
「・・・大変失礼いたしました。検査して良かったですね。」
ん?え?
「インフルエンザB型です。」
『えーーーーーーーーーー?!?!?!』
勘弁してよ・・・
家に帰るとすぐに39度まで熱が上がる。
先に陰性と診断された神谷さんも念の為再検査をしたら、インフルエンザB型だった・・・
そこから5日間寝込んだ。
寝て、痛くて起きて、また寝て、熱いのか寒いのか分からない状態で起きて、また寝て。
熱なんて、上は39.8度、下は36.9度を行ったり来たり。
こんな時に、いや、こんな時だからこそかな。
昨年同じ籍に入った“家族”である梨菜に助けられた。
図らずも家族の温かさを感じる出来事になった。
自分たちの休みを返上して代わりに働いてくれたみんな。
しんどいはずなのに、心配してくれてありがとう。
インフルエンザになったことは辛かったけど、
“家族”の温かさに触れることができたのが嬉しかった。
きっと、家族だけじゃなく、友人や、先輩や後輩、上司や部下、
身近にいる人の「温かさ」なんだろうな。
普段はなかなか気付かないけど、感じようとすればすぐそこにあるもの。
忘れないでおこう。
しかしあれだ、神谷さんを始め、マコト、マー君、ロミ、ミナミ・・・
次々に倒れていったけど、きっとあれだよね・・・
今回の阿佐ヶ谷店におけるインフルパニックの・・・その・・
パイオニアというか、なんというか・・・
そう、
「十中八九、保菌者は僕でした。」