男ですいません

気が付いた時には

ただがむしゃらに走っていた

朝もやの中

人気の少ない高架下を

ほとんどお店の閉まった一番街を

キリキリ痛み出す横っ腹

意思とは裏腹に思っているほど動かない足

過呼吸により刺激を受け膨張した肺

もう、歩いてもいいのだ

何かから逃げているわけじゃない

歩いたところで誰にも迷惑はかけない

それでも走った

がむしゃらに走った

男だから◎

おかしいなぁ

仕事後に、僕と神谷と慎矢で

一番街に有るとんぼ屋(旧俺ん家)にラーメンを食べに行ったはず

ラーメンを食べ終わった後

ビール飲みながら、くっだらないこと話してて

話がどこでどうなったか分からないけど

『富士山登ろうよ!』

『んじゃ、登るなら一合目からだな』

『いや、麓まで阿佐ヶ谷から駅伝で行こう』

『っていうか、そんな体力あったっけ?』

『ちょっと今、どれぐらい走れるのか、走ってみる?!?』

『いいねぇ、んじゃ、この町内一周で』

『負けた奴は、ここのお会計持ちね』

『いいねぇ!』

ラーメンを食べ終わってから

5分後、平穏な食後の空気は一変し
僕らは一番街の道路の上でそれぞれにアップをしていた◎

とんぼ屋を出て、一番街の一番奥まで行き左折そしてすぐ左折
ローソンの有る高架下のバックストレートをひた走り
突き当りを左、そしてまたすぐ左、再びとんぼ屋へ戻ってくると言う
200mぐらいのコースだ◎

じゃんけんで順番を決め

iPhoneでタイマーを起動して

第一走者である僕はアオニポロも脱いでTシャツ一枚になった◎

初冬の朝だ、寒い、寒いに決まっている

だが、アオニポロ一枚の重さがコンマ一秒のタイム差に
繋がるかもしれないと思うと、自然に脱いでいた

本気なのだ◎

靴紐も結びなおした

そう、ガチなのだ◎

軽くもも上げをして
タイマー係の慎矢に『オッケー』と伝えた

すると慎矢は
『んじゃ、いきますね、よーーーい、ドン!』

そこからは先述の通りだ◎

僕が走り、そのあとに慎矢が走り、最後に神谷が一番街を駆け抜けた

三十路に両足踏み入れた男が、足を必死に動かし
ゴールしたあとは、地面に這い蹲り、痛む肺と腹を押さえ
何も会話できないほど本気で走った◎

お会計のため?

駅伝のため??

富士山のため???

もはや、そんなものはどうでも良かった◎

それぞれが走り終わったあと

『次はもうチョイうまくペース作れる気がする』

『俺も、そう思ってた』

そして
第二ラウンドが始まった◎

再び、順番に走り、走りぬけたあとは
同じように再び肺と腹に悩まされながら
そして
ゴール後もガクガクいってしまう足を見て

『もう、足が笑ってる!』

『俺もだ、立てない』

なんて、言う事を聞かない足がそれぞれに付いてることに
全員が引きつりながら笑った

『次、万全の体調でやったら1分を切れる気がする』

『俺も今、それ思ってた』

もう、富士山はどこへやら◎

意味の無いことに全力投球◎

翌日の筋肉痛も考えず全力投球◎

帰り道の朝日が眩しかった◎

ホント、男って馬鹿だよなぁ

男ですいません◎

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