• 2016年1月23日
  • BY 道太

ハルキ

なんとか無事に山を乗り越え
大人の男としての威厳だけは保つことができた苫小牧駅
夜9時半
今夜はここの町からフェリーに乗って
明日の朝に到着する八戸をめざす◎
その前に
そこまでのたったの1時間だけ
会う約束をしていた奴がいる◎
ハルキ
14年前、僕が井之頭公園で井の村と呼ばれる
ブルーシート居酒屋をやっていた頃
彼は、公園にドラムセット一式を持ち込んで
ストリートライブをしていた
かっこいいなぁ
なんて思ったその週は何事もなく過ぎていったが
その次の週、ドラムセットではなく
ジャンベと呼ばれる、股に挟んで叩くような
アフリカの太鼓を持ってきて池のほとりで叩いていた◎
「お酒あげるから、一緒にやろうよ」
僕は一杯の焼酎を持って行き彼にそう提案した◎
そこから気がつけば毎週一緒に公園で飲み
緩やかな彼の人柄や、優しい性格
彼の音に惹きつけられた人たちも増え
どんどん増えていく人たちと一緒に
公園以外でも飲むようになり
ハルキのライブや
僕の家にハルキがお酒を持ってきて飲む
というようなことも多々あった◎
しばらくその関係は続いたが
ある時突然姿を眩まし音信不通になった
ハルキのことが気になってはいたが
携帯も変わっていて
そういえばどこに住んでいるのか住所も知らない
実家がどこであるかも知らなかったので
なす術が無く時が流れた
シマリス
彼のことをそう呼ぶ女の子がいた
いつもボーダーの服を着て
ひょっこり現れては、気が付けばどこかにふわふわ行っている
探すと、また井の頭公園の池のほとりで
ぼーっと遠くを見ていたり
今でもなぜだかその呼び名は覚えている
そんなハルキが
阿佐ヶ谷青二才が1店舗だけの時
ある日突然
ふらっとやってきた◎
「いやぁ、今実家に帰っちゃっててさ」
悪気のないハルキの空気だった◎
久しぶりの再会に
ハグをし、みんなに紹介し飲んでその日は過ぎた
北海道で実家の農業を引き継いで
大きな畑を耕しているらしい◎
ちゃんと連絡先も聞き、いつか北海道に行った時には
今度はこちらから会いに行こう、と決めていた◎
それが苫小牧で会う約束をしていたハルキ、だ◎
6年ぶりぐらいに会ったハルキは
結局何も変わってなくて安心した◎
また、ハグをして、ハルキ行きつけのバーに行きいろいろと話した◎
今では結婚もして、子供もいるらしい◎
そこのバーもいい雰囲気だった◎
ビールも美味しくいただいたし
最後にいつものテキーラもやった◎
一時間というのが
こんなに短いものだと気付かされた
案の定
フェリー会社に電話をし
「苫小牧港ギリギリ何時着なら間に合いますか」
で答えていただいた本当にギリギリまで居た◎
見送りをしてくれているハルキを見ながら
次はいつだろうな
なんて考えていたら車はもう姿が見えないところまで走っていた◎
フェリーターミナルではなんとかギリギリ間に合い
僕らを乗せた大きな鉄の塊は
夜の海に、ゆっくりと滑り出した◎

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