山形

日本海側が記録的な大雪の天気予報の中

酒田の町に着いた時

天気は今にも降り出しそうな雲の下で

テントが立てられ、そこで鱈汁がふるまわれていた◎

大きな鱈の切り身と、白子が入った熱々の味噌汁のようなものだった◎

大きなリュックを脇に置き

次の乗り換え電車が発車するまでの小一時間

そこで過ごした◎

昨晩の深酒の後にはこういった汁物がたまらなく沁みた◎

乗り換えて数駅

なんと晴れていた◎

本日の目的は、山形県で全量純米大吟醸の蔵として

大人気の楯野川酒造さんを訪れることだった◎

佐藤社長が自ら僕らの電車の到着をわざわざ駅まで車で迎えに来てくださっていた◎

「んじゃ、蔵に行く前にとりあえず腹ごしらえでもしますか」

と近所の行きつけっぽいラーメン屋さんへ◎

山形市が全国で一番ラーメンの消費量が高く

それに準ずるように山形県の他の市も軒並みラーメンを

愛する文化がこの県にはあるらしく

ご多聞に洩れずこの酒田の地も

酒田ラーメンがあるほど愛する人が多いらしい◎

並みでも大盛りぐらいの量があるこの麺を啜り

そこから再び車で蔵を目指した◎

天気は晴れだしていた◎

蔵に着くと、まず僕らはその規模と清潔感に

圧倒された◎

自分のところに巨大な精米機が二台もあるのを初めて見た◎

轟々と音を立てながら稼働しているその機械は

お酒つくりの期間、止まることなく24時間動きっぱなしだとのこと◎

11年前、佐藤社長が実家である蔵に戻ってきた頃は

まだ200石程度だったそう◎

それが現在では2500石という10倍以上の規模になったのだ◎

日本全国、昔から大量に造られていた普通酒が

どんどん売れなくなっている現在

伸びているのはやはり、特定名称酒と呼ばれる、

いろいろな基準をパスして丁寧に造られているお酒だ◎

この蔵はしかもその中でも最も手間とコストのかかる

全部のお酒を純米大吟醸のみとしたのだ◎

手間とコストをかけながらも

10年前に思い切った決断と、徹底した実行力で

今ではそのジャンルで一つの地位を築き上げるほどの実力蔵さんであると思う◎

「まぁいろいろと大変でしたねー」

などと軽く仰っていたがきっとその裏には並大抵ではない

努力や、悩みなどがあったのだと思う◎

リスクの高い茨の道を選び

他の追随ができないところに到達してしまっている方だからこそ

サラッとその労苦が話せてしまうのだろうと思えた◎

たくさんいる若い蔵人さんもみんなハキハキとして

大きな割にとてもフレッシュなイメージだった◎

「もう一つの蔵を見たら、こことは全然違いますよ」

と、楯野川をあとにして向かったのは

隣町である鶴岡市にある奥羽自慢を醸している高橋さんのところ◎

じつはこのお蔵さんは、数年前に廃業しかけているところを

楯野川の佐藤社長が引き継ぎお酒造りをされているのだ◎

よって高橋さんも元楯野川で

今は形式上は出向という形でのお酒造りをされている◎

ニコニコと温かみのある笑顔で

「実はね今、糖質制限中なんですよ、こないだの検査で

アレの数値がアレでね◎」

なんて笑い話も混ぜながら

利き酒や蔵案内をしていただいた◎

確かに先ほどの楯野川とは

随分と規模感や設備などが違い

かなりクラシックなお蔵さんだった◎

最新式の設備がないということは

高橋さんの裁量次第でお酒がどんどん変化するのだ◎

元来お酒つくりはとても手のかかることだ◎

それを地道な設備投資などで

手間のかからないようにしたりするのだが

高橋さんのお酒はまだ手間をとてもかけるスタイルだ◎

だが手間のかからないお酒は造らない◎

だから、大量には造れない◎

目の届く範囲で、手をかけることのできる総量でしか造らないのだ◎

毎年毎年少しずつ新しい機械を導入はしているらしいのだが

それでもなかなか追いつかないぐらいにお酒造りは大変だとのこと◎

「社長ともお酒造りのことに関してはぶつかることもありますよ」

などと高橋さんは笑いながら言うが

また高橋さんの言葉にも佐藤社長のような

見えない部分での重みのある言葉であることには違いないと思った◎

晴れていた天気は

いつしか予報通り雪になっていた◎

ほんの一時間ほどなのにあたりは真っ白に

お忙しい中であることには違いないのに

「今日はそんなにすることないので」

などと言い、僕らを車に乗せて次の目的地まで送ってくださった◎

山形県鶴岡市

中野の店長をしているトゥーこと

齋藤健敏が生まれ育った町◎

僕らの次なる目的は

トゥーのお父さんお母さんに会うことだった◎

普段、家族のように接し、仕事をしてくれている

トゥーの家族にもどうしても会って、いつもお世話になってますと

ありがとうございます、と

ちゃんとお礼が伝えたくて◎

豪雪の中着いたその家は

雪のせいかその町もとても静かで

僕らが家の外から覗いているとお母さんが出迎えてくださった◎

「ようこそこんな遠いところまでわざわざ」

と◎

中野の町も夜になれば静かだが

それとは質の違う静かさに包まれた街◎

雪が降るときの

しんしんと

という表現、あれ付けた人天才なんじゃないかと思うぐらい

しんしん

そうか、こういう町でトゥーは育ったんだな

となった◎

きっと今は忙しい日々でなかなか思い返すこともないかもしれないが

きっと心のどこかには、今日僕らが聞いているこの静かの中にある

心でしか聞けない

しんしん

という音◎

それを聞いて育ったんだな◎

部屋ではストーブが炊かれていた◎

挨拶をし、昔の話を幾つか聞き、お茶をいただいた◎

神谷がお茶を啜る音がまた聞こえる◎

人がいるというのは

やはり音があるものだと感じた◎

一つ一つの音がとても意味のあるものに思える◎

そういえば今日の奥羽自慢さんでも静かな蔵の中に

水を流す音や、遠くで聞こえるボイラーの音などが

どこかに人がいる音だったんだと思った◎

一つ一つの音とぬくもりを大事に◎

この日はなんと、トゥーのお父さんとお母さんが近くの旅館を取ってくれていた◎

東京に帰ったらもう一度お礼の手紙を書こう◎

雪が積もる中、静かに寝た◎

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